飛翔

日々の随想です

七夕の季語は秋?!



もうすぐ七夕。
こんな句がある。

    七夕や髪濡れしまま人に逢ふ
          (橋本多佳子『橋本多佳子句集』(角川文庫)より)

これは女流俳人の橋本多佳子の作。
 洗い髪が乾かぬまま恋しい人のところへ行くという逢瀬のひと時を歌ったものかと思ったらそうではないらしい。 七夕は「秋」の季語。 
七夕は陰暦ではすでに8月の半ばに当たり、立秋を過ぎている頃である。
これは夫を亡くして久しい作者が初秋のころ、洗い髪のまま人に逢うくらい平気になった境地を歌ったもの。
橋本多佳子(明治23年〜昭和38年)

橋本多佳子、美女の誉れたかい高貴の未亡人.

 昭和四年、小倉より大阪帝塚山に移住。終生の師山口誓子に出会い、作句に励む。私生活では理解ある夫との間に四人の娘に恵まれる。まったく絵に描いたような幸せな暮らしぶり。しかし突然夫は他界する不幸が訪れた。

  月光にいのち死にゆくひとと寝る

夫婦仲がよかったものの片割れが亡くなるということは身を引きちがれるようなことだ。

    雪はげし夫の手のほか知らず死ぬ

 狂おしいばかりに夫を恋い、したう妻の歌だ。

 さて、七夕の夕、橋本多佳子の句にもどろう。
 七夕や髪濡れしまま人に逢ふ
に思いを馳せてみたが、ここでの七夕は何と陰暦の七夕。すでに立秋を越えた頃のことだったとは・・・。
 しかし、織姫と彦星は一年に一回はあえるけれど、この世とあの世あいだにある三途の川は越えることができない橋本多佳子の思いの壮絶は句によって昇華されて読者の胸を打つのである。
文藝というものの美しさに感動する。