飛翔

日々の随想です

あなたに逢いたくて生まれてきた詩


 寒い夜、寝る前にゆっくりお風呂に体を沈めて目をつぶると、
 「あぁ、いいお湯だ!」と思わず言ってしまう。
 子供のころ、父がお風呂に入ると、同じような声が風呂場からしたものだ。
 その父が病気になり、入院した。
  病人の介護をしていてよごれものの世話は慣れるまで大変だ。父が入院していた日、慣れない手つきで世話をしていると看護婦さんが来て、てきぱきとかたづけて私にこう言った。
「あのね、人間の体からでるものできたないものなんて一つもないのよ」とにこっと笑った。
父もほっとしたような顔になってここちよさそうにいつのまにか眠った。汚れたものをさげて明るく病室を出て行く看護婦さんの後姿に私は言うに言われない感動で胸がいっぱいになった。
看護婦(看護士)さんを美しいと思った。それは外観の美醜でなく、崇高な美である。
次の詩は小学校一年生の詩だ。

ぼくのおかあさんはおふろのかんごふさん 

                    さとうゆうすけ
 
いつも、ぼくにはなしてくれる。
おふろは、とてもきもちいいよね。
まいにちはいりたいよね。
でも、大すきでも、はいりたくても、
はいれない人が、たくさんいるんだって。
だから、おかあさんは、
どんなにとおくでも、いきたいんだ。
ひとりで、はいれない
からだのふじゆうな人のために。

ぼくにはなすんだ。
「てをにぎるとね、おはなしができなくてもわらってくれる。」って。
目にはなみだをいっぱいためて。
おかあさんは、こころもからだも
あったくしてあげるんだ。
おかあさん、がんばれ。

(「あなたにあいたくて生まれてきた詩」宗左近 新潮社より)


この詩は第三十七回晩翠児童賞優秀賞受賞作。作者は当時小学校一年生のさとうゆうすけ君。

お母さんが自分の仕事の内容をお子さんにしっかりと伝えて、それをこどもなりに理解している結実の詩である。「おかあさんは、こころもからだもあったくしてあげるんだ。おかあさん、がんばれ。」
小さいけれど世界一大きな応援者の言葉。
子どもはどの子もお母さんが大好きで応援してくれるけれど、こうしてお母さんの仕事を理解しそんな母を誇りに思う心が応援の言葉になっていて胸を打たれる。
寒い日、心づくしの温かいスープに優しい言葉をかけたいものだ。