子供の頃近所にラムネ工場があった。
綺麗な水が排水路にながれていて、そこに色とりどりのビー玉も落ちていた。
ラムネのビンは不思議だ。せんをあけるとコトンとビー玉がビンの首の辺りに落ちて、飲むとコロコロと音がして落ちてきそうで落ちてこない。美しく不思議なビンだった。
暑い盛りにこのラムネを飲むと胸の中に「チュ〜っ」と炭酸が流れ込んで、すがすがしさとカランコロンと鳴るビー玉の音が涼をよぶのだった。
山登りをすると必ず山頂に着いたらラムネの冷えたのを絶対飲むぞとおもったものだ。暑い日はふ〜ふ〜言って汗を拭きながらこのラムネのせんをあける。
「コロン」と音がしてビー玉が落ちる。
「あ〜、夏だなあ」と思う瞬間だ。
と言っても、今ラムネはなかなか手にはいらない。もっと綺麗でおいしくて冷たいものに取って代わってしまったのだろう。
あのラムネ工場のおじさんがランニングシャツ一枚で汗をかきながらラムネのビンを運んでいたあの夏の日はもう戻ってこない。