飛翔

日々の随想です

すゞしさや月ひるがへすぬり団扇(うちわ)



・すゞしさや月ひるがへすぬり団扇(うちわ) 祐甫
(『古句を観る』柴田宵曲 より)

この句は元禄時代のもの。「ぬり団扇」というのがミソ。
現代はエアコンが普及したのでちょっと暑いとすぐエアコンを入れる。
団扇(うちわ)などは商店で配ってくれる宣伝だらけのおよそ風流とは縁がないもの。
しかし、その団扇もめずらしくなりつつある。
まして団扇に漆などを塗って、てらてらしたものは見たことがないだろう。
子供の頃我が家の台所に大きな天狗が使いそうな大団扇があった。
表面を柿の渋で塗ってあってテラテラと光っていた。

その一方、お座敷では団扇たてにすずしげな団扇を数本入れてあった。

さて上記のうちわの句であるけれど、月のもと、涼んでいるようすがうかがえる。
柴田宵曲さんの評釈によれば、月光を受けたぬり団扇が涼しく光っている。団扇をひるがえすたびに、一面に受けた月の光もひるがえるように感じるという解釈だ。
月の光が漆など塗ってある団扇の表面に射しかかるようすはなんとも風流で涼しげではないか!
そのうちわをあおぐたびに月の光もひるがえる。
現代では暑い夏の宵を外で涼をもとめようなどと思う人は少ないだろう.まして月光をあびるということも。
街のネオンがまぶしく、街灯がともる夜は月の光はかききえてしまう。
エアコンがあるので団扇を持つ必要もない。
さすれば、かのような句の風流さなど生まれない。
文明は「雅」(みやび)に目くらませをくわす。
風物と云うものは時代とともに移り行くさだめか。

今夜は寝るのが惜しいほどの月明かりの宵である。