いつだったかニューヨークで停電があった。高層ビルのエレベーターは止まり、地下鉄はうごかなくなり、皓々としていた灯りがニューヨークから消えた。文明の利器に頼り切っていた現代人にとってはパニックだ。キャンプで使うダッチオーブンを取り出してきて、外で薪を燃やし、料理。
星空の美しさにやっと気がつき、ばらばらだった家族が身を寄せ合うのだった。
だからといっていつまでも薪で煮炊きなどもはやできなくなっている文明人。
喧騒と利便。時代の最先端を行くIT機器を駆使した瀟洒なオフィスビルで働き、週末には別荘や郊外の家で薪が燃える暖炉で太古からの灯にくつろぎ心身を温める。
そんな贅沢な生活でも隙間をうめられない。
ふと普段着のぬくもりある会話、昔かたぎの人情に触れてみたくなる。
ふらりと旅にでてみたくなるのはそんな時だ。
忘れてきた何かを探しにでる。
本の世界にそれを見つけることもある。
人間の帰巣本能がそうさせるのだろうか?
では人間はどこへ帰りたがっているのだろうか?
自分の中の巣のありかはどこだ?