飛翔

日々の随想です

良夜


朝晩めっきり涼しくなった。
秋は夕暮れ。夕日はなやかにさして山ぎはいと近くなりたるに、烏のねどころへ行くとて、三つ四つ二つなど、飛びゆくさへあはれなり。まして雁などのつらねたるが、いと小さくみゆる、いとをかし。日入り果てて、風の音、虫の音など。
とあるのは『枕草子』第一段である。
秋の日の夕暮れ時の風景が目にみえるようでまことに趣がある。
では夜はどうだろう?

人それぞれ書を読んでゐる良夜かな(山口青邨

虫の音がそぞろ秋の気配を濃くする夜。
「良夜」とは旧暦の八月十五日と九月十三日。つまり中秋の名月の夜と十三夜の月光あまねく澄みきった夜のことである。

月光が皓々と夜を照らすときこれを見ずしてねむってしまうのは惜しいものである。月の光は静々とあらゆるものを清めてくれるように夜をひたしてゆく。

秋は人を詩人にする。