浅漬かりのキュウリやニンジン、茄子、キャベツなどはサラダ感覚で食べられる。
母のぬか漬けは最高に美味だった。
私は別名「キュウリ夫人」と呼ばれるくらいキュウリのぬか漬けが好き。
それも浅漬かりしか食べない。
そこで母は私が起きる時間から逆算してキュウリを漬ける。
切り方にも、器にもうるさい私。
「しょんずい」の美しい器にみずみずしく盛りつけられたキュウリは芸術品。
さつま切り子にも盛りつける。
切り方によっても漬け物の味は違ってくる。
乱切りは古九谷に。
各種漬け物の盛りあわせは大振りの盛り鉢に。
今漬けもの樽からとりだしたばかりという瑞々しく艶やかな野菜はそれに見合う器に盛りつけると尚一層の趣がますというもの。
たくあんなどというものは隠し包丁を必ず、入れる。
つけものと言っても幅広い。
ちょっとおつなものと言えば卵の黄身を味噌につけたもの。
出来たらうずらの卵が良い。
これは黄金のチーズという趣がある。
味噌床にうずらの卵の黄身が入るくらいのくぼみをつけておく。
そこへ黄身をしずかにくずさぬよう入れ数日漬けておく。
するとチーズか、からすみのような味の極上品が完成。
「ぬかみそくさい」という形容があるが、おいしいぬか床というのは香気がしてけっしてくさくない。
それは主婦が心をこめて毎日何回もかきまわし、調整をし丹精がこもっているのである。
清潔を保ち、水気の有無を調整し、塩加減、発酵具合を長年の経験でみる「お母さん」の味が絶妙な個々の味となるのである。
「ぬかみそ女房」は最高の称号。
上品にもりつけるのもよし、素朴な鉢にどんと盛るのもよし。それは食卓の上の「母さん」の顔でもある。
舌の上で塩味に微妙な甘い香味を感じとるならば、もうあなたはブリア・サヴァラン 。
「ぬかみそくさい」などと言うなかれ。ぬか漬けは日本の最高傑作なのであるから。