ベトナムの雨は詩である

夏至 特別版 [DVD]

トラン・アン・ユン監督『夏至』のDVDの紹介である。
ストーリーは母親の命日に集まった3姉妹と兄弟。3姉妹は仲が良いがそれぞれ誰にも言えない秘密を抱えている。理想の夫婦だと思っていた母が本当に愛したのは父ではなく初恋の人だったのではないだろうか？という疑問がもちあがり心が揺れ動く。姉妹達も自らの不倫や夫の愛人、その子供の問題など次第にさざ波のようにひろがっていく。
家族の絆、夫婦の機微などを織り込みながら東洋の美をあまねく映し出すことに成功した作品

『青いパパイアの香り』の女優で監督夫人のトラン・ヌー・イエン・ケーの美しさが際立つ。黒く艶やかな髪、なめらかな肌、しなやかな痩身、切れ長な目がことのほか美しい。
東洋の女性の黒髪がこんなにも美しかったかとあらためて惚れ直すほど美しい。
撮影は『花様年華』のリー・ピンビン。
全く西洋人にはない東洋の美ヴェトナムがそこに匂うが如くあまねく映し出すことに成功した作品だ。
この監督はじつに光と影を描く詩人だ。窓から部屋のなかへ射し込む朝日とその影、、光を背にして立つ女性のシルエット、水に反射する光の戯れ。
ハノイの夏至の光が鎧戸のむこうにあまねく満ちている。
水のあつかい方にかけてもこの監督は詩人である。雨のなか恋人を探すヒロイン。雨に濡れた黒髪と肌はなめらかに艶やかに光る。
木々を打つ雨の滴、したたるような湖の青、ヴェトナムをあまねく穿つ水。
アジアに降る雨はみずみずしい。
どこかにつねに水の気配を感じさせる映画である。
音楽はトン・タ・ティエ。ヒロインの兄が朝のめざめとともにかけるのはいつもあのＮＹのルー・リードである。
カンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞した事がうなずける。
みずみずしい感性。詩人のようなきらめきを映像にしてみせる才能は白眉。