毎週土曜日になると、近郊の農家のおばさんたちが朝市を開く。朝採ってきたばかりの新鮮な泥つき野菜やイチゴハウスの朝摘みイチゴは大人気だ。
買いに来るお客もおばさんたちが多い。その中に、もちろん「元お嬢さん」だった私もいる。
朝早くから詰め掛けるおばさんたちは屈強で「こうけつあつ」の人が多い。並んで野菜を品定めしていると、目の前を丸太のような腕をしたおばさんが立ちはだかった。おばさんのヒップは巨大な岩のようだ。前の景色がこの岩にはばまれると一瞬にして見えなくなる。相当な「こうけつあつ」だ。
私はたちまち、この「こうけつあつ」のおばさんにはじき飛ばされた。
「きゃ〜」と叫んでも誰も振り向かない。
つめかけた客はイチゴをわれ先に買おうと手を伸ばす。
1kgで何と300円の安さなので超人気。
私はジャム用のイチゴを買う。ジャムにするわけではないが、甘みと酸味がほどよく、イチゴ本来のおいしさが凝縮している小粒のものを買う。ハウスのおばさんに頼んでジャム用のものを用意しておいてもらう。
こうけつあつにはじき飛ばされても、ハウスのおばさんは私のためにちゃ〜〜〜んと別口にとっておいてくれる。なぜかって?私は早起きして、荷おろしを手伝っているからだ。おばさんは高齢の人もいるので、ついみかねてお手伝いしているうち、それが当たり前になってしまった。おばさんたちは優しい。タケノコや野菜をそっとわけてくれる。時々、店を放りだして漬物を家まで取りに帰ったりする。私にくれるための漬物だ。
店をあけたままなので、私が店番をする。「にわか店番」だ。「にわか農家のおばちゃん」になる。
「このフキいくら?」「100円よ」
「このたまねぎは?」「4っつ束になっているのは100円よ」
「このほうれんそうは?」
「シャキッとしてみずみずしいでしょ。私みたいに。あはは。それも100円よ」
「あんた、それを言うならお客さんみたいにと言うんだがね」
としわくちゃのおばあさんがまぜかえしてきた。
まわりの客もいっせいに笑い声をたてた。
客とのやりとりが面白く、店番をしていると生き生きとしてくる。そう。おばちゃんのほうれんそうのように。何しろこの店は店番しやすい。だいたいのものが100円なのだから。
そうこうしているうち、本物の農家のおばちゃんが戻ってくる。
新聞紙に包んだ漬物をいただいてから、私は帰路につく。
心優しいおばちゃんとの交流ももう十数年経った。