飛翔

日々の随想です

おんな作家読本

活字離れと言われて久しい。しかし漫画は売れに売れている。わが国の総理大臣も漫画オタクが輩出されるようになった。
そんな中、本屋の様相も変わってきた。店頭販売だった本がネットで販売され、古本のマーケットも様変わりした。これまで古本屋は男性が経営するのが常だった。
それがここ十年ぐらいでさまがわりし、女性が古本マーケットに乗り出してきた。

ネットの古本屋さんでその名まえが注目されだしたのはネット古書店海月書林」(くらげしょりん)を立ち上げた 市川慎子(のりこ)さんである。
独自のセレクトで発信された本、雑誌が評判を呼び売れに売れはじめたのは今から8年前のことだった。
市川さんの目の付け所は「オンナコドモの本」。男性古書店主がほとんど捨てていたようなジャンルの本。
詳しい繁盛振りと魅力は『女子の古本屋』岡崎武志著(筑摩書房)をご覧いただくこととして、今日紹介するのはその市川慎子さんがだした『おんな作家読本』

おんな作家読本 明治生まれ篇

おんな作家読本 明治生まれ篇

明治生まれの女性作家と作品の紹介本である。
しかし、ただの紹介本ではないところがミソ。
選ばれた女性作家の写真、愛用した品々、書斎、そして勿論本の書影(本の装丁写真)をふんだんに織り込み、さらに似顔絵風のイラスト、女性作家と関係のある男性作家の写真には吹き出しがついているという念のいれよう。
つまり視覚から入るもの(写真、イラスト、漫画風のコメント)をふんだんにちりばめ、お洒落な構成なのである。
だからと言って本の紹介の内容が簡単かと言うと決してそんなことはなく、きっちり全作品を読み込んでいて書評としても一流であることがうかがえる。
林芙美子を例に取ると:
先ず簡潔なキャッチフレーズで林芙美子のキャラクターを表すウルトラわざ。
「強くて明るい庶民の娘」=林芙美子
 ちいさくてまるっこい体に小説への愛をぱんぱんにして、明治から昭和を、駆け足で生きた作家:林芙美子。 びっくりするくらい自由で率直。なんともいえずかわいいらしい。どん底の放浪生活からペン一本で流行作家となった林芙美子の作品には、お日さまをたくさん浴びて育った雑草の生命力があふれている。

と短い文章の中に的確に林芙美子の人物像と一生を描いてしまう筆の力には感服。
本の装丁や遺品、書斎、「こぼればなし」や、お気に入りのお菓子まで丁寧に写真入で紹介していて、女性ならではの細やかな神経が行き届いている。かつての『暮らしの手帖』的風合いの編集が光る。
こうして林芙美子をはじめとして、吉屋信子森茉莉、中里恒子、城夏子、宇野千代片山廣子松村みね子長谷川時雨岡本かの子尾崎翠野溝七生子矢田津世子、森田たま、山川菊榮幸田文佐多稲子といった「明治生まれの女性作家と作品」を紹介。
白眉なのは見返しに「人物相関図」を載せていて、宇野千代と関係があった男性作家たちの相関図や森茉莉幸田文に勝手にライバルししていたなどをイラストとコメントつきの相関図になっていて、「ミーハー気分」で女性作家たちの関係をビジュアル的に把握できる点である。つまり見返しの「人物相関図」を見ただけでこの本の面白さが予測でき読者を引きずりこむに足るのである。
膨大な作品をしっかり読み込んできた作者の読書量とそれをこなれた言葉で分かりやすく伝える言葉の技、編集のさえが光りにひかっていてこれはすごい一冊だった。
この人はただものじゃない!編集者としても超一級の人!!