飛翔

日々の随想です

河野裕子さんの絶唱を聞く

  2008年11月号の「短歌研究」に河野裕子さんの「体力温存」の歌20首が掲載された。
 お亡くなりになってまたこれを再読すると、自らの病と夫を想い、子を想い、来し方を想う絶唱を聞くおもいになる。その時の記事を再掲載する。

短歌研究 2008年 11月号 [雑誌]

短歌研究社

このアイテムの詳細を見る

『短歌研究』11月号は内容が深いものがあった。

偶然なのだろうか、特別作品二十首、作品連載第四回 三十首の多くは病や死にかかわる歌が多かった。田中子之吉「妻病む」河野裕子「体力温存」桑原正紀「棄老病棟」、島田修三「ふかき河」。特集一が「挽歌を読む」だった。
 中でも特別作品、河野裕子の歌二十首「体力温存」はご自身が今病床にある身、看病する夫を想い、娘を思い、かかえる病を思う歌に歌人(うたびと)の絶唱を聞く。
大泣きをしてゐるところへ帰りきてあなたは黙って背を撫でくるる
わたしより不安な不安な君なれど苦しむ体はわたしの体
わたししかあなたを包めぬかなしさがわたしを守りてくれぬ四十年かけて
慰めも励ましも要らぬもう少し生きて一寸はましな歌人になるか
三時間かけて受けゐる点滴と六十兆の細胞、白兵戦を戦ふ

 これら絶唱に添える言葉は無用。
慰めも励ましも要らぬもう少し生きて一寸はましな歌人になるか
多くの読者がこの歌にうなずいてエールを送った。
「いい歌を詠ってください」の読者の願いにこたえるようにお亡くなりになる寸前まで歌を作った河野裕子さん。細胞の隅々まであなたは歌人でいらっしゃいました。
 心よりの敬意とご冥福をお祈りします。