飛翔

日々の随想です

歌舞伎の名ゼリフと俳句

連休最後の日も快晴。
 気温は26度以上の夏日。庭の草木が花盛りを向かえ、今が一番目にさやかな季節だ。連日あちこちに出かけたので、今日はゆっくりと家でくつろぐことにした。手紙を書いたり原稿を書き、頭や目が疲れると庭の花々を眺めやる。そんな時の過ごし方はなんとも贅沢な気持ちになる。
 贅沢と言えば素敵な着物をぞろりと着て、歌舞伎見物なんざぁ〜、よほどのおだいじん!なんていうのは昔のこと。この歌舞伎座がもう閉じられて新しい歌舞伎座が建設されるという。それまでの三年間はあちらこちらの芝居小屋で歌舞伎が演じられる。

 実家の母も父も大の歌舞伎好き。その子どもの私も大好き。父は浅草育ちの江戸っ子。宵越しの金はもたねえ〜とばかりにきっぷがよい。母は山の手の育ち。慎ましやかで凛とした人だった。父は歌舞伎、浄瑠璃、新内、どどいつ、小唄に端唄、木やりが大好き。
 歌舞伎の声色(こわいろ)などはお得意中の得意。門前の小僧とばかりに私も父と一緒に「白波五人男」の配役を変えて長ゼリフにみえをきって演じたりした。

”知らざあ言って聞かせやしょう 浜の真砂と五右衛門が歌に残せし盗人の、種は尽きねえ七里ヶ浜、その白浪の夜働き、以前を言やあ江ノ島で、年季勤めの稚児が淵、百味講で散らす蒔き銭をあてに小皿の一文字、百が二百と賽銭の,くすね銭せえ段々に、悪事はのぼる上の宮、岩本院で講中の、枕捜しも度重なり、お手長講と札付きに、とうとう島を追い出され、それから若衆の美人局、ここやかしこの寺島で、小耳に聞いた爺さんの、似ぬ声色でこゆすりたかり名せえゆかりの弁天小僧菊之助たぁ俺がことだぁ!”
はご存じ、白波五人男の一人「弁天小僧菊之助」が歌舞伎の「青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)、浜松屋の場」で諸肌脱いで言うセリフ。

名ゼリフといえば『 楼門五三桐 』( さんもんごさんのきり ) で、大泥棒 「 石川五右衛門南禅寺三門の上からの眺めに感嘆して大見得を切る名場面がある 。

絶景かな、絶景かな!
   春の眺めが
      値千金とは
         小(ちい)せえ、小せえ。
    己の目には一目万両〜!!

と大見得をきるところなどは子供心に胸がすかっとする。 
ところで、俳人宝井基角の俳句にこんなのがある。

・夏の月蚊を疵(きず)にして五百両

夏の夜、空に浮かぶまあるい月があたりを皓々と照らす美しさは値千金、いや、値千両の趣があるというもの。
しかし、月をめでているそのまんまえを蚊がブンブンうるさいとなるとせっかくの風雅な月にもけちがつくというもの。五百両さっぴかなきゃなるまい!てなもんですかね。

絶景かな、絶景かな!
   春の眺めが
      値千金とは
         小せえ、小せえ。
    己の目には一目万両〜!!

の歌舞伎のセリフが頭にうかぶというもの。

まったくおつな俳句でありんすわいなあ〜!!