飛翔

日々の随想です

ドラマでないヒューマンドラマ


 冬季オリンピックの観戦は本当に面白い。
 思いがけない展開や熱戦、緊張がみなぎっていて創りものにはない迫真の場面ばかり。
 例えばスケートショート・トラック女子3000mリレー決勝には中国、韓国、カナダ、米国が出場。韓国・中国がせりあって、韓国が一位になったと誰もが思い、選手たちは韓国の国旗をかかげてトラックを一周しかかった。すると突然、中国の選手から歓声があがった。審判の判定により韓国の進路妨害があったと判定。韓国は失格。中国が金メダルに繰り上がった。銀はカナダ、銅が米国となった。中国は世界新記録で金メダル獲得。韓国が失格となったため、日本の最終順位は7位となった。
 また23日に行われた男子1万メートルで、優勝者を上回るタイムを出しながら違反で失格となったクラマー(オランダ)は、レース途中に誤ったコース誘導をコーチにされて失格となった。男子5000メートルを制したクラマーが長距離2冠を狙った1万メートル。世界記録保持者は高速ラップを刻み、5組で五輪新の12分58秒55を出した李承勲の通過タイムを6周目で上回った。だが、リンクを25周する長丁場の戦いで、17周目にドラマが待ち受けていた。

 バックストレートでのコース変更で、アウトに入りかけていたクラマーが急に進路をインに取った。「コーチの声が聞こえた。一瞬の判断でコーチを信じた」。しかし、コーチの勘違い。2回連続でインコースを滑ったクラマーは走路違反で失格となった。

 完全にコーチの勘違いによる失格である。しかし、この悲しいばかりのドラマの後にはまた人間的ドラマがあった。それは 「失格」を聞いた直後、ゴーグルを投げ捨てるほど怒りを表したクラマーは、「これまで本当によく指導してくれた。 一度失敗したからといって優秀な指導者を失うことはできない」とコーチをかばったことだ。何と度量の広い男ではないか!
世界選手権大会3回優勝、ヨーロッパ選手権4回優勝、五輪5000メートル金メダルなど、クラマーの業績の大半がケムケルス・コーチと一緒に築いたものだ。
クラマーは「昨日はショックが大きくてコーチと言い争いをした。 しかし私は恨みをいつまでも抱く人間ではない。 それが自分にもチームにもプラスになる。 コーチに‘一緒にやろう’‘もっと多くの勝利を一緒につかもう’と話した。 それがコーチと自分にとってもっと大切だ」と述べた。
クラマーとケムケルス・コーチは最後の団体競技でもう一度金メダルに挑戦する。

こういうヒューマン・ドラマがあるからオリンピックは見逃せないのである。


そして明日はいよいよ女子フィギュアがある。
 大舞台で19歳の真央ちゃんと二十代の若き乙女の鈴木選手、安藤選手がリンクで世界の強豪たちと美しく熾烈に競うのである。精一杯今までの努力を華として咲かせてほしい。