飛翔

日々の随想です

『王女マメーリア 』ロアルド・ダール著

王女マメーリア (Hayakawa Novels)

王女マメーリア (Hayakawa Novels)

ロアルド・ダールと聞くと何を思い浮かべるだろうか?
最近では映画「チョコレート工場の秘密」が空前のヒットとなって話題を呼んだ。
そう。ダールは童話作家でもある。「でもある」というのはその前に幾つもの顔があるからである。
ちょっと毒の効いたミステリー作家であり、短編物のエースであり、脚本家でもある。
映画『007は二度死ぬ』、ミュージカル『チキ・チキ・バン・バン』の脚本が実はダールのものだというのは案外知られていない。

さて、前置きが長くなった。
本書はミステリー9編が収められている短編集である。
どれを読んでも奇抜な発想と、あっと驚くオチ、しかもおしゃれな味わいがあってこくがある。
さながらビターチョコレートの味とでも言おうか、甘さの中の苦味がダール独特の「毒」を含んでいてこれが実に小気味よい短編ばかり。

オチは勿論言えないけれど、幾つかを紹介しよう。
本書の『執事』はどこぞの誰か、芸能界や巷の誰かにあてはまりそうな自称「ワイン通」と称する鼻持ちならない俗物を痛快に切ってくれて、とかく「通ぶる」人間、俗物どもには「毒」となり、読者には快哉となる一編。
ブルゴーニュのロマネ・コンテイと並ぶ世界最高の赤ワイン、あのナポレオン三世がパリ万博のために作らせたラフィトの‘45年を本書を読んで味わえるおまけがある。
一方、童話作家の顔を持つダールの真骨頂とでも言えるのが『王女と密猟者』『王女マメーリア』。
これは大人のための童話とも言える。『王女マメーリア』のほんのさわりだけを紹介しよう。
「17歳の誕生日。王女マメーリアは鏡に映った自分の顔に愕然とした。不器量な少女が、一晩で目もくらむような美女に変身していたのだ。彼女は美しさゆえに絶大な力を身につけるが、かわりに優しい心を失っていく。」

さて、最後に愛書家、読書家、古書マニアの読者の耳目を集めそうな一編が『古本屋』。
ロンドン、チャリング・クロス街に稀覯 ( きこう ) 本の古書店をかまえるウイリアム・バゲージ。店内の本が売れようが売れまいがきにかけないふう。実は彼は億万長者。仕入れや販売に手腕がありそうにもみえない。しかし、ある日の顧客の請求書には高価な古書がずらり。
顧客はすべて資産家ばかり。なぜか?

この先の最も面白い部分は読者がお読みください。
あっと驚くトリックと妙味にうならない人はいないでしょう。

本書はダールのおしゃれでちょっとシニカルな短編の妙味を堪能できる一冊です