飛翔

日々の随想です

からすうり綺譚

「からすうり」の花をみたことがあるだろうか?
信じがたいほど幻想的で夢の世界にいるような花を咲かせるのだ。
それも夜咲くので咲く瞬間を目撃することはよほど注意していないと遭遇しない。
能・歌舞伎の「土蜘蛛」をドラマテイックにしているのは、いうまでもなく、ぱっと舞台に広がる「糸」の演出。舞台一面に投げた「糸」が美しい放物線を描き、花が咲いたようになる。

演者:粟屋明生

カラスウリの花もそれに似ていて繊細な白い糸が網状に世にも幻想的に咲くのだから驚く。
こんな幻想的な「カラスウリ」の花を見ていると誰もがこの花の秘めたる物語に想いをめぐらせるのではなかろうか。
梨木香歩著『家守綺譚』には「カラス瓜」の章がでてくる。

この作品の中にはさまざまな植物がでてくるけれど、どれも華美でなくひそやかに咲くものが多い。
植物や昆虫に魅せられる人は多い。
ファーブルを筆頭に養老先生、開高健薄田泣菫、・・俳優では小沢昭一など。その昆虫や植物にまつわる本も多い。
昆虫や植物をありのままに実写するのでなく、梨木さんのようにその植物から受ける気のようなものから 幻想的な物語に発展させ、しかもおどろどろしたものでなく、どこか懐かしいような、邂逅の世界にまでさまよわせるのは見事だ。
「からすうり」の赤い実は、つたごと素朴な板の上に置くと、それだけで一幅の絵となる。
野にあっては、つたかずらがからまる「からすうり」は誰にも気づかれない。
それが夜のとばりがおりるころになると、魔法をかけたように真っ白な糸を幾重にも編みこんだレースのようにちりばめ、月から降りてきた姫君のベールのようになる。
こんな幻想的な花を見た日は、月のしずくに湯浴みしたごときものとなる。
自然が綾なす妙は人知を超える。
「からすうりの花」
漆黒の闇に咲く「月よりの使者」。