仕事場に認知症をわずらっている義父がなだれこんできたことがあった。
止めるひまもなくわめいて暴れる。みんな何事がおきたのか呆然とする。落ち着かせて話を聞くと石油缶が燃えると言う。
スタッフに職場をまかせて外に。 義父が元気なときにせっせと楽しんでいた家庭菜園に連れて行きその畑の真ん中にスコップで穴を掘った。
そこに燃えるといって不安がる石油缶を埋めることにした。
寒風が吹きすさぶ寒い冬のことだった。かじかんだ指に涙がこぼれてしみた。
あんなに頭脳明晰でダンディだった義父が・・・
「お義父さん!大丈夫よ。ここに埋めたからね、今に石油の種が芽をだすかもしれないわね。どんな花が咲くのかしらね?」
不安が去ったのか、落ち着いた様子の義父。 家につれて帰り温かい甘酒を作った。とろりとした甘酒がこごえた体を温めてくれた。
そんな義父も今はいない。
ぼーっとほうけたように今朝、畑に立つと美しいオクラの花が咲いていた。
あのときの石油はオクラの花になった。