飛翔

日々の随想です

山で一泊―辻まこと画文集

山で一泊―辻まこと画文集
辻まこと
創文社

 幻の逸品と言われていた「辻まこと」の画文集を手に入れた。
 
 題字も挿画もすべて辻まことのもの。
月夜の晩、山中にいる犬と男の絵は「あとがき」にある文の絵だろう。
 青い色の濃淡と白い月。
山中にえりを立てて座る男と犬。
目の中から心の奥底まで染み込むような寂寥と、見るもののに物語を紡がせる絵である。


 辻/まこと
 1914年生まれ。本名辻一。詩人、画家。フリーのグラフィック・デザイナーとして文明批評的なイラストをはじめとする多くの作品を残し、山岳、スキーなどをテーマとした画文でも知られる。日本のダダイズムの中心的人物辻潤と婦人解放運動家伊藤野枝が両親。1975年没 。
 大杉栄のもとに出奔した母、伊藤野枝は1923年9月1日の関東大震災から間もない16日、大杉栄、大杉の甥・橘宗一とともに憲兵に連れ去られ、その日のうちに憲兵隊構内で扼殺されて死亡(甘粕事件)。遺体は、畳表で巻かれ、古井戸に投げ捨てられた。享年28。父は日本のダダイズムの中心人物であった。

その背景を背負うかのような影が絵から垣間見えると思うのは思考に頼りすぎかもしれない。
そのまま、あるがまま、辻まことの作品を味わうべし。

 文章は独特な味わいがある。山男の匂いのようでいて、どこか親しみを感じる詩のような文にひきこまれる。
 ランプの下で読んだらさらに味わいがでそうだ。