飛翔

日々の随想です

さまざまのこと思ひ出す桜かな


愛知県 岡崎城の河川敷
昨日の激しい雨が嘘のようにあがって、今日は初夏のような天気になった。
 真っ白なピケのドルマンスリーブのチュニックに白の7分丈のパンツ。上に白黒の模様のコートブラウスを羽織って学校へ出かけた。 コートもジャケットもいらない爽やかな日にまだ桜の花が散らずに咲いている。

 淡いピンクのパステルカラーが続く桜のトンネルをくぐり、駅まで行くと、駅の坂道には見事な一本桜が存在を誇示するように咲いていた。薄紅色の桜の花は一つでは可憐だけれど、一本の木に一斉に花をつけると風情ががらりと変わる。野山でみられる緑の中に点在する桜はそのコントラストゆえに際立って目を引く美しさだ。また吉野の千本桜は山全体がうすべに色のカスミのようで幻想的ですらある。桜前線などと言う言葉があるように、日本列島を南から北へ向けて桜が北へ北へと咲いていく。それを追っていく人も大勢いる。

 寒さがやっと和らいだ安堵感と共に咲き始める桜の花に、日本人は日本の季節の中の「春」を特別なものとして愛するのは理解できる。しかも、桜咲く春は、スタートの季節として営々として日本人の心に浸透していった。入学式、入園式、入社式。
 受験の合格を意味するものに「桜咲く」と打電したかつての日本人。

 花は桜木。人は武士などといわれてきた。桜は散るときは一斉に散る。舞うように桜花は散っていく。
 良くも悪くもぱっと咲いてぱっと散る無常観は日本人の心の底流にながれるものなのだろうか
 週末には散ってしまいそうな桜に名残惜しい感情をおぼえる。
 今は亡き父が愛した一首は西行の有名な歌。

 ・ねがはくは花の下にて春死なん そのきさらぎの望月の頃
 

 ぱっと咲いてぱっと散ってしまう桜の花。その華やぎともののあわれにそれぞれが心の中に咲かせる「桜」はきっとさまざまなものなのであろう。

さまざまのこと思ひ出す桜かな 

 と芭蕉が詠んでいる。

あら名残惜しの夜遊(やゆう)かな。惜しむべし、得がたきは時、逢いがたきは友なるべし。
 春宵一刻値千金、花に清香月に影