飛翔

日々の随想です

柳家小三冶の独演会

柳家小三冶の独演会に行ってまいりました。
のっけから客はきつい皮肉をひとひねりやられました。っというのも名古屋の客はいけねえ〜!開演時間は6時半だというのに遅れてくる客が一杯!
開演時間が遅らされた。時間を守らない客。いわゆる「名古屋時間」
小三冶さんはそれを「枕」にして、皮肉もたっぷり。たっぷり皮肉をきかせたあげく最後の言葉が効いた!
「そういう名古屋時間の客って「好きよ!」」とやらかしてくれる小三冶さん。
前座は三三(さんざ)。前にオカミサンの本を読んでいたので「ああ!あの三三」かあ!とひとりにんまりしながら前座の話をきいたのでありました。オカミサンの本によれば、この三三は大の寝坊。小心者。この小心者の三三はある日、結婚をしたい人がいると言い出したそうな。それも年上。しかも、おなかにはもう赤ちゃんが。オカミサンは叫ぶ!
「まったく、まったく。・・芸をまねろってエの!手の早いところだけそっくり師匠似って、どういうのヨ!」
これをひょいとおもいだしちまった私。もうまともに三三の話をきけなくなってしまったのでありました。
さて、さて、前座が終わるといよいよ真打登場!待ってました!小三冶!
舞台中央には濃紺の台。その上には真っ白なふかふかの座布団。ふたつきの湯のみ茶碗が出されている。
 そこへ出囃子「二上がりカッコ」に乗って小三冶さん登場。黒紋付の羽織に着物。お!と息を呑んだのは羽織の紐!おおおおお!なんと赤い紐。
 粋だねえ!黒紋付の着物と羽織の真ん中に一点赤をおくなんざあ、洒落ているじゃあござんせんか!それも赤が赤でもワイン系の赤。漆黒の着物に赤いアクセントがぴりりと効いている。
 この羽織を一席話している間に、もう、うっとりするようなしぐさで脱ぐのだからたまらない。赤い紐をするりと解いて一度両手で前に紐をそろえる。
 話をしながらこれを何食わぬ顔でしかも、粋なしぐさでやるのだ。そしてついっと袖口を両手でもって羽織を肩口から後ろへとするりと脱ぐのだ。
 お茶椀のふたをとってお茶をぐびりと飲む。またふたをして座布団の脇におく。語り口調が段々江戸っ子の下町風になってくる。
 廓(くるわ)話が前半。ちょっと話が長かった。後半は休憩が入って古典落語「小言こうべい(小言念仏)」
 もうこれは至芸と言って良いほど。
 長屋の大家は「小言」ばかりのうるさい親父。小言こうべい。このこうべいさんが長屋に一軒だけあいている部屋を貸すことになった。貸してくれとやって来た客の品定めの問答が抱腹絶倒。
 宗派をもじったり、長唄がでてきたり、おばあさんになったり、歌舞伎の声色がでてきたり、女になったり、いなせなあんちゃんになったり、仕立て屋になったり変幻自在。八面六臂の話芸の極みここにあり。
 江戸前のいなせな言葉が小気味よく、年齢、職業、性別ごとに言葉の使い方、勢い、そんなものを使い分け、演じわけて見事。さすがに当代きっての噺家
 間が絶妙。客を引き寄せる技に長けている。
「枕」が長いので有名な小三冶だけれど、よ〜く注意してみると、この「枕」の反応で客の呼吸を計っているようだ。枕を話している間に客を一身に自分に引き寄せ手繰り寄せ、雰囲気をつかんでいる。
 コンサートでも落語でもやはりライブは命。
 CDなどで聞くすべもあるけれど、ライブ、生は格別なものがある。それは客と演じ手とが双方でかもし出すもの。それが芸をひきだすのだと思う。
 ひさしぶりに「粋」な話芸というものを堪能した夜だった。甘露甘露。