童話作家で詩人の岸田衿子(きしだ・えりこ)さんが7日午前、髄膜腫のため神奈川県小田原市内の病院で死去した。82歳。葬儀は近親者で済ませた。お別れの会を後日開く。喪主は長男未知(みち)さん。
東京出身。劇作家の岸田国士(くにお)の長女で、女優の岸田今日子は妹。東京芸術大油絵科を卒業後、結核療養中に創作活動を始めた。詩人の川崎洋や茨木のり子が創刊した詩誌「櫂(かい)」に参加し、詩集「あかるい日の歌」などを発表した。
「ジオジオのかんむり」など童話や絵本も数多く手掛け、アニメ「アルプスの少女ハイジ」や「フランダースの犬」などの主題歌の作詞をしたことでも知られている。詩人の谷川俊太郎さん、故田村隆一さんは元夫。
(毎日新聞 2011年4月13日 10時15分(最終更新 4月13日 16時02分)から)
岸田衿子さんを偲んで作品の書評を載せご冥福をお祈りいたします。
- 作者: 岸田衿子
- 出版社/メーカー: 童話屋
- 発売日: 1995/10/01
- メディア: 文庫
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南の絵本
いそがなくたっていいんだよ
オリイブ畑の一ぽん一ぽんの
オリイブの木が そう云っている
汽車に乗りおくれたら
ジプシイの横穴に 眠ってもいい
兎にも 馬にもなれなかったので
ろばは村に残って 荷物をはこんでいる
ゆっくり歩いて行けば
明日には間に合わなくても
来世の村に辿りつくだろう
葉書を出し忘れたら歩いて届けてもいい
走っても 走っても オリイブ畑は
つきないのだから
いそがなくてもいいんだよ
種まく人のあるく速度で
あるいてゆけばいい
「ゆっくり歩いて行けば/明日には間に合わなくても/来世の村に辿りつくだろう」とそのあゆみは時空を超えてしまうスケール。
この悠然としたおおらかさはどうだろう!この広がりは「種まく人のあるく速度であるいてゆけばいい」に集約されている。ただ悠然と歩むのでなく、目的を持って歩み続け来世までも突き抜けてゆく。何と素晴らしい歩みであろうか。
詩集「いそがなくてもいいんだよ」の著者 岸田衿子さんは子供時代から行き来していた浅間山麓の森の奥に現在は住み、芸大の油絵科入学以来スケッチブックに「言葉のデッサン」を描いてきたと「あとがき」にはある。
音楽にも「色」が見える曲もあれば、絵画の中に「音」が聞こえてくるものもある。
衿子さんの詩には野原いっぱいに広がる「色」が見え、風のそよぎ、木の実のはぜる「音」が聞こえ、描く風には「色」さえも見えてくる。