飛翔

日々の随想です

ひっつき虫と絶滅品種


 人間は知恵を結集して月まで行ってしまった。それどころか、最近では月よりも遠い小惑星に探査機を飛ばし回収する快挙までなしえた。すごいものである。では人間以外の物、植物はどうだろうか?植物だって相当の知恵者だ。
 草花は手をかえ品を変え種(しゅ)の保存に知恵をしぼっている。タンポポの綿毛はふわふわと軽い身を利用して、わずかの風に乗って遠くまでタネを運ぶ。ホウセンカなどはかんしゃくもちなのか、ちょっとでもかんにさわると「頭にきたぞ」とばかりに小さなタネを機関銃のようにはぜて飛ばすのだ
 秋の野山に行くと「ひっつき虫」と呼ばれる草の実に出会う。出会うというよりも、勝手に親しげにひっついてくる。まったく人懐っこい奴だ。
 植物は人間のように歩いたり、車に乗ったりして移動できない。そこで彼らは生存戦略を立てる。花はひときわ美しく目立つような色や、えもいわれぬ香りで虫をおびき寄せて花粉をつけさせる。それによって出来たタネを今度はどこかに蒔かなければならない。
 また戦略をたてる。果実となって鳥や動物に食べさせそのタネを運ばせる戦略だ。
 では雑草などの目立たないものはどうするか。ここで「ひっつき虫」と呼ばれる草のタネが登場するのだ。彼らは人間や動物にひっついてタネを運ばせるのだ。ひっつき虫は二種類あって、マジックテープのように先端がかぎのようなとげで人間や動物にくっつく「マジックテープタイプ」と、べたべたした粘着テープのような粘液でくっつく「粘着テープ」タイプとがある。「マジックテープタイプ」にはオナモミとか、イノコヅチという草があり、「粘着テープタイプ」にはチヂミザサの実が挙げられる。
 生きるために必死に知恵を使っていると思うとみんな愛おしくなる。
 考えてみたら、人間も植物と似た様な戦略を立てている。
 春になるとそれまで厚着していた服を脱ぎ、女性はカラフルな目立つ色を選び、化粧をほどこし、いい匂いの香水をつけて花のようになる。花に集まる蝶のように男たちは美しく華やかな女性に幻惑(げんわく)される。
 惑(まど)わしただけでは結婚まで至らないので、べたべたとくっつき虫のようになって、甘い言葉やしぐさでとどめを刺すのだ。こういうと
 「何さ!女を馬鹿にしないでよ。精神と精神の結びつき、愛情と言うもので結婚するのよ」 とお叱りを受ける。
 そうでした。おっしゃるとおりです。人間は他の動植物とは異なり精神と言う物質とは異なる内的なものを持っている。
 人間はこの高邁(こうまい)な精神と科学と知恵とでこの地球の覇者(はしゃ)となった。 しかし、月まで行ける知恵がありながら、戦争をなくす知恵は足りないようだ。
人間は脳が発達した事により他の種族に比べ、様々な発見もし、科学という偉大な知恵を身につけた。しかし、それに伴い大きな欲も生まれ醜い争いが絶えない。人間が人間を滅ぼすことにならなければ良いが。今に絶滅品種となるのは人類と言う日が来ないとも限らない。次にあげる歌がそれに警鐘を鳴らしている。

 この星のすべての地雷除くには千年かかるという試算あり
(松村由利子第二歌集『鳥女』(本阿弥書店)より)