飛翔

日々の随想です

木下闇(このしたやみ)


長雨がやんで好天気の日曜日。田植えの風景があちこちに見える。
 我が家はこの雨続きで庭があっというまにジャングルになった。ケヤキは一本で森を作り始め、それまで物干しをしていたのが、木下闇となって干せなくなった。自然の力、大樹の生育の旺盛さに目を見張らされる。緑が濃くなり、その中からチェリーセージが点描画のように赤を散らしている。愛らしかったパンジービオラ徒長してひょろりとした茎が目だつ。切り戻しをしてやれば、もう一回ぐらいは綺麗に咲いてくれそうだが、勢いはそがれていく。入れ替わりに夏の花、サフィニアが鮮やかな紫や濃いピンクの花小群れをなし、明るい日差しに映えて妍を競いだした。
 愛犬を失ってから散歩をする習慣が消えてしまった。いつも行っていたスーパーには行かなくなった。なぜならば、スーパーの前が獣医医院だからだ。あの日瀕死のクッキーを担ぎこんだ映像がまぶたから離れない。
 遠くのスーパーまで行く。どこへいくにせよ、愛犬との思い出はついてまわる。愛する者の死はいつまでも悲しい。ケヤキの根方にクッキーを葬った。そこはひっそりと木下闇(このしたやみ)を作って静まりかえっている。

望月の駒牽く時は逢坂の木の下闇も見えずぞありける 恵慶法師『後拾遺集