飛翔

日々の随想です

せどり男爵数奇譚

本好きの中でも古本屋めぐりが大好きな人も多いことだろう。
そこで古書にまつわる本を紹介しようと思う。
それは『せどり男爵数奇譚

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)

せどり男爵数奇譚 (ちくま文庫)

本が好きで好きで、とりわけ古書に興味がある人が、本書を読まず通り過ぎるわけにはいかない。ことにあとがきが誰あろう、あの出久根達郎氏とくればなおさらのこと。

さて前置きが長くなった。本書は古書業界に材を取った我が国最初の本格小説である。
知られざる古書の世界の内幕と書物に魅いられた人間たちを描いたミステリー。
せどり男爵」こと古書業を営む笠井菊哉がその主人公。
せどり」とは古本屋仲間で嫌がられる商売の仕方で、新規開店の店へ行って必要な古本だけを買うのを俗に「抜く」とか「せどり」と言う。
または「同業者の中間に立ち、注文品などを尋ね出し、売買の取り次ぎをして口銭をとる事。またその人」を言う。

この「せどり男爵」こと笠井が作家にその辿ってきた生涯と事件を語ることからはじまる連作短編6話がその内容であるが、古本市、古書の値打ち、古本屋の符丁、かけひき、古書業界の摩訶不思議な世界が次々と繰り出されて、本好きにとって、びっくり箱を覗いた面白さが満載。
ちなみに、あとがきを書いた現役の古本屋でもある出久根氏に寄れば、古書にまつわる細部の描写は十中八九まで真実であるとのこと。

またビブリオマニア(書物狂)は、稀本、珍本を前にすると放火、殺人、窃盗までも犯してしまうというミステリー展開が待ち受けていて読者に息つく暇を与えない。
「汝、姦淫せよ」という一大誤植の聖書があったら私でも食指が動こうというもの。
さては私もビブリオマニア(書物狂)に毒されたかも?

時の経つのさえも忘れて一気に読了した久しぶりに面白い本だった。