飛翔

日々の随想です

墨汁一滴

 「腹が減っては戦はできぬ」というが、確かに、すきっ腹では力は出ない。
 病を得ても同じだ。ここのところ、体調不良で筆が進まなかった。と書いてみて、待てよと思う。あの正岡子規をみよ!病を得てなお「墨汁一滴」を書いたではないか。

墨汁一滴 (岩波文庫)
正岡 子規
岩波書店
 その「墨汁一滴」を書くに至った箇所を読んでみよう。

 はた如何いかにして病の牀とこのつれづれを慰めてんや。思ひくし居るほどにふと考へ得たるところありて終ついに墨汁一滴ぼくじゅういってきといふものを書かましと思ひたちぬ。こは長きも二十行を限かぎりとし短きは十行五行あるは一行二行もあるべし。病の間ひまをうかがひてその時胸に浮びたる事何にてもあれ書きちらさんには全く書かざるには勝りなんかとなり。
書かないではいられない想いの丈高しである。
 病があろうがなかろうが、才人とは、志ある人は、意志を貫くもの。軟弱な者にはかなわぬ強さである。