飛翔

日々の随想です

古本の釣果

 秋の日差しを背に受けながら古本屋へ立ち寄る。
 絶版本『セヴィニェ夫人手紙抄』(岩波文庫、昭和十八年初版刊行。井上究一郎訳)、『旧聞 日本橋長谷川時雨著(岩波文庫)、『私の食物誌』吉田健一著(中公文庫)『ウェークフィールドの牧師』ゴールドスミス著(岩波文庫。昭和十二年初版刊行。神谷三郎訳)が釣果。

 『旧聞 日本橋長谷川時雨著(岩波文庫)は大江戸の名残をとどめる日本橋界隈と世態人情を綴った自伝的回想。これは江戸の名残をとどめた記録として読んでも面白いが、時雨が九歳のとき弟子入りした二絃琴の師匠と漱石の『我輩は猫である』に登場する美猫三毛子の女主人が二絃琴の師匠だったこととつながって連想の糸をたぐる楽しみがある。
また鹿鳴館時代の吉原の遊女がボンネットをかぶり、十八世紀風のひだのある洋服を着ていすに寄りかかっていた様子がさりげなく書かれていて、時代の様変わりがうかがえていて面白イ。

『ウェークフィールドの牧師』ゴールドスミス著(岩波文庫。昭和十二年初版刊行。神谷三郎訳)はあの太宰治が『ウェークフィールドの牧師』のような作品を愛するといっていたことを思い出すと、おもわぬ拾い物だったかもしれない。

 秋の夜長、新刊本を読むもよし、古本を愛でながら読むもよし。