飛翔

日々の随想です

苦役列車

 芥川賞受賞作品である。
 受賞直後のインタビュー風景が強烈な印象を残した。片や良家のご令嬢風の朝吹さん。片や異形な風貌の西村賢太氏。そつなく出版関係の人に感謝を述べる朝吹さんはどこまでもお嬢様。家柄からしてすごい。父は詩人で仏文学者の朝吹亮二さん、大叔母はサガンの翻訳で知られる朝吹登水子(とみこ)さんという“文学一家”に生まれたという生え抜きのお嬢様である。
 一方、西村賢太氏といえば、「ちょうど風俗に行こうと思っていたところへ受賞の知らせがあった。出かけなくて良かった」と苦笑させる。


 読了後の印象は強烈なインパクトがのこる私小説だと思った。著者によれば九割は自分のことだと述懐する。



 中卒の主人公北町貫多は物流倉庫で働く日雇い。実父は性犯罪者という過去を持つ。母は父と離婚し、貫太は中卒のまま日雇い労務者となる。
怠惰な性格と性犯罪者の子供と言う生涯付きまとうレッテルを憎悪しながら投げやりな人生が連綿と続く。
恋人もなく、日々の酒代と性風俗通いの金のためにだけ働く貫太は、人並みはずれた劣等感から生じる、ねたみや、そねみに自我を侵食され、己の人生がずっと続くかと思うとこの世がひどく息苦しく感じる。それは一個の苦役にも等しく感じる。



  古臭い、もう聞くこともないような言葉「結句」がやたらと出てくる。「黽勉(びんべん)たる」とか、「孜々(しし)」の心がけ」などの古風な語句を使いながら独自の文体をかもし出しているのが面白かった。
 春の野菜はえぐみが強いものがあるが、そのえぐみが味わいにもなる。
それと似て本書のえぐみは強烈であり、独特な個性を放っている。女性からのシンパシーは得がたいようにも思った。
泥臭くどこまでもえぐるように地べたを這う者の生活を描いて見せた作品。
 無頼派の登場を思わせる作家の生い立ちと生活自体が小説といってよい。
材料にことかかないほどの生い立ちと生活ぶりは強烈な武器である。
えぐい読後感であった。
 心酔している藤澤 清造の全集を受賞で得た賞金すべてを注ぎ込んで出版するという。