飛翔

日々の随想です

打ちのめされるようなすごい本

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)

 米原万理さんの絶筆となった闘病記を収録した最初で最後の書評集。
 新聞の書評欄を担当していたころの米原万理さんの書評を楽しみに読んだものだった。それら新聞に載ったものをはじめとして膨大な書評と闘病記が収められており、特に闘病記は冷静にしかし、必死に癌克服のため、ありとあらゆる医者を探し、治療をし、その闘病のさま、医者の態度、効果を刻々と書き連ねてあって参考になると同時に、克服のためなら患者はここまで調べ上げ、労をいとわず、医者と治療に納得いくまでしなければならないものなのだと考えさせられた。
 凄いのはひと言の泣き言も、繰言もなく自らの治療のために東奔西走している姿である。この闘病記だけでもずっしりと読者の心にくさびを打つものであるけれど、膨大な書評の量は圧倒される。
 その内容もお手軽な書評とはまるでことなるものであり、米原万理さんの肉体と知を通過したふつふつとした肉声がともなうものであり、読むはなから本屋へ駆け込んで読んでみたくなるような書評ばかり。
 書評を通じて米原さん自身をまるごと読んでいるような気持ちになる。血の通った書評とはそういうものかもしれない。
 米原万理さんはその独特のユーモアとずばりと核心を突く鋭さにあるといえるだろう。闘病記も少しの弱腰なところがなく、敢然と立ち向かう姿はどこまでも生き抜いてやろうとする逞しささえ感じる。私たちはそこからどれだけの勇気をもらったことだろう。
 生きる上でユーモアと不屈の魂を忘れてはなりません。
 そう教えられたように思う。