飛翔

日々の随想です

ひいき目に見てさへ寒いそぶりかな

朝晩涼しくなってきた。いや、そうではない。寒くなってきたといってよい。
 寒くなるとなぜか人は体を丸くする。丸くなって、体の表面積をなるべく少なくし、寒気から身を守ろうとするからだ。自分の動作を思い起こしてみると、寒い朝、新聞を取りに出るときなど、首に冷たい風があたらないように、首をすくめて、背中を前のほうに丸め、両手を口元へ持っていく。そして両手指に息を吹きかける。「おお寒い!」などと身震い一つして玄関に入る。
 まるで年をとった人のようだけれど、これは子どものころからやっている動作だ。
 これが年頃になって出かけるときなど、別人のように薄着をするから不思議だ。
 背中を丸めて体表面積を少なくするどころか、胸をはって、ハイヒールの靴音も高らかに颯爽とでかける。(内緒だが、よくみると寒くて鼻水がでているときがあるから要注意)
 そんな風にもうじきやってくる冬には、どの人も背中を丸め、首をすくめて北風から身を守るしぐさをするものだ。
 江戸時代を代表とする俳諧師小林一茶もこんな句を詠んでいて面白い。

  おのれが姿に

  ひいき目に見てさへ寒いそぶりかな 一茶

わが身ゆえ、ひいきめにみたいけれど、いくらひいき目にみたところで、寒そうな貧乏そうな姿だなあと自分を嘲笑している。

一茶は世の中をあざけり、人を憤(いきどお)るのであるけれど、結局は自分をあざけて終わるのが特色だとは高浜虚子の謂いである。(『俳句はかく解しかく味わう』高浜虚子著(岩波文庫)から)