飛翔

日々の随想です

「時代横丁」を観て

今日は快晴にして湿度もなくからっと新緑の候にふさわしい週末となった。
 今年の目標は随筆を中心に読むことと芝居をたくさん見ることをかかげた。
 今日は珍しい「見るラジオドラマ」を標榜(ひょうぼう)する「時代横丁」なるお芝居を見に行くことにした。
 「ひと組」プロデュース 十周年記念である。
 作・演出は麻創けい子によるもの。
 麻創けい子は脚本家、演出家である。芸術創造賞受賞、名古屋芸術奨励賞、松原英治・若尾正也記念演劇賞、名古屋市民芸術賞など各賞受賞歴多数の今もっとも注目されている才能ある売れっ子脚本家・演出家である。

 今日見る「時代横丁」はシリーズになっていて始まってから十周年を記念する人気公演である。小さなホールには満員御礼が出るほどの盛況。十周年すべてみているという客も居る。
 今日の演目は「道三春夢譚」。国盗りの野望に燃える斉藤道三。その道三に国守の座を奪われた土岐頼芸。両者の合戦に駆りだされ、戦のむごさを知った雑兵。戦乱の時代を生きた男たちと彼らに寄り添う女たちのドラマだ。

 先ずびっくりしたのは演技者すべてがカラフルな黒子スタイル装束に身を包んでいることだ。舞台装置は一切なく、布を用いて川となし、背景に群居する黒子たちは照明の明暗により影絵のような役割を担っている。
舞台前面右端に座る語り手が事の成り行き次第を客に語る。その語りにしたがって主役や脇役が出てきて話が展開してゆく。
 衣装なし、舞台装置なし、主役も脇役も、語り手もすべての役者は黒子装束である。
 つまりあらゆるものをはぶき、そぎ落とした形で芝居が展開してゆく。それはあの能舞台のようであるが、能は仮面劇である。この「ひと組」の芝居は黒子スタイルの役者が観客の想像力を借りて「言葉」を立体化していくユニークな芝居なのである。
 言い換えると小説を読んでいるときには読者は頭の中で映像を思い浮かべ、音楽や情景や心理状態までを頭の中に立体化して読んでいるのである。つまり読書しながら頭の中ではめまぐるしく映画のコマがまわされ、音楽が聞こえ、小説の中の人物の顔や年齢まで自分の想像の中で組み立てているのだ。それをこの芝居はそのまま実現化し、舞台化したのである。
 作者はこれを小説でなく「見るラジオドラマ」と言っている。まさに言いえて妙である。

 驚いたのなんのって、こんなシンプルで素晴らしいことを着想した脚本家に脱帽である。
 この作者はラジオドラマの脚本も書いているので、そこから着想したのかもしれないが、これは画期的なことだ。

 演じる人は丁寧に丁寧に言葉「セリフ」を「語っている」のが印象的だった。つまり「ラジオドラマ」を映像化、舞台化するという意図のもとにあるからだろう。舞台俳優と言うのは総じて「セリフ」がわざとらしく「芝居」じみてしゃべるものだ。つまりそれが「芝居」というものだから。しかし、それはいかにも芝居臭くてかなわない。ここでは「言葉」が命なのだから、丁寧に「語って」いる。「口先」だけの芝居は一切ないのが良い。

 芝居の芯をなすものは戦に明け暮れて食うか食われるか、殺すか殺されるかという日々がいかにささくれだったものなのか、そんなことよりも自然の恵みに感謝しつつ慎ましく生きていく幸せこそが人として生まれた喜びに繋がるというものだ。
 わかりやすくまっすぐに伝わるストーリーがここちよい。
 最後の場面は一転して狂言仕立ての爆笑劇。小さな舞台と客席が一体となって沸いた。
 
 何とここちよく面白い芝居なのだろうと驚嘆した。これはシリーズになって何十年でも続くわけだと納得。また見たいと思わせる舞台。これが芝居の原点ではなかろうか。
 今年一番の芝居であった。
 
 ※来週の土曜日5月15日午後2時より、東海ラジオにて作・演出 麻創けい子、出演「ひと組」によるラジオドラマ「大根列車」が放送される。
 東海ラジオをお聞きになれる地域の方、是非お聞きくださいますように。